古典舞踊 in チェンナイ覚書

1日目オープニング

Shijith Nambiar and Parvathy Menon

男女デュオのバラタナティアム。寡聞にして知らず。初日のオープニングは肩の力を抜いてゆったり観ようと思っていたのに、とても見応えがあってやっぱりドッと疲れた。

でも良いものを見せていただきました。名門の舞踊大学カラクシェートラ出身とのこと。

(ちなみに比べる気には微塵もならないけれど、私が習っている古典舞踊もバラタナティアムで、たくさんある流派のなかでも、カラクシェートラ流の隅っこの隅っこのほうにひっそり所属しています)。

Leela Samson and Spanda Dance Company

カラクシェートラの理事を務めたリーラさん率いる一団のパフォーマンス。

リーラさんといえばカラクシェートラ、カラクシェートラといえば創始者ルクミニ・デーヴィー女史と並んでリーラ・サムソン。

この方の全盛期の映像をどれだけ見たことか。可憐で美しくて、感嘆のため息しか出ない踊り手さん。現役時代を観たかったなあといつも思う方です。

ここ数年は、リーラさんの名前の力で若手の踊り手を売り出そうという意気込みを感じます。この方は政治力にも長け、人あたりも如才なく、表舞台の歴史に名が残るべくして残る方なのだろうなと思います。

その一方、私はちょっと狂気じみた、バランスってなに? というような天才にどうしようもなく惚れてしまうのですよ。天才はもしかしたら歴史に名は残らないかもしれない。でも、私は自分の記憶にしっかり残そうと思う。余談。

今回の音源は「河」をイメージしたオリジナル曲で、タミル語、サンスクリット語、カンナダ語、ウルドゥー語、ヒンディー語、ベンガル語とインドのさまざまな言語の詩が使われているとのこと。

ヴォーカルも楽器勢もリーラさんの力で実にそうそうたるミュージシャンが集結したという感じで、生演奏でないのは残念ですが音源でないとできないことでもあります。アルバムあるなら絶対買うけどたぶん出ないな……。

踊りは……、評論家がなんというかは分かりませんが、私には前衛的というか斬新すぎて乗り切れず。

ナレーションのクレジットを聞き逃したけれど、敬愛するラーマ・ヴァイディヤナタンさんだったはず。聴き慣れた美しい声とわかりやすいアクセントでした。

リーラさんはほんとうに所作が美しくて見惚れますが、飛んだり跳ねたりよく動く若手に混じっていると、ものすごく綺麗な太極拳をしている人みたいでした(私はしがらみはあまりないので書いてしまいますよ)。

2日目

Sudharma Vaithiyanathan

オープニング直後の一発目は観るほうもなんだか緊張します。

最初固い感じでしたがどんどんノッてきて、踊れば踊るほど身体がよくしなり動くという、気持ちのよい踊り手さんでした。

初見の方ですがとてもよかった。6歳でアランゲトラム(お披露目デビュー公演)をしたとプログラムに書かれているけれど、そんなことほんとうに可能なのかしら。

昨年夏に来日され、ご縁があったハリプラサードさんがヴォーカル。すっかり聴き慣れた甘い声を再び堪能。

午前ふたりめはスキップ。午前と午後2公演ずつ、1日計4公演があり、1公演1時間半あるので、全部を見ているとぶっ倒れます。ここにほかの劇場の公演もハシゴしたりすると観るほうも洒落じゃなく体力勝負。ぜんぶ観たいけど体力を温存せねばなりません。

Kalakshetra “Maha Pattabhishekam”

この演目を見るのはおそらく2回目。舞踊大学カラクシェートラによるインド二大叙事詩のひとつ”ラーマヤナ”のダンスドラマ。振付はカラクシェートラ創始者のルクミニ・デーヴィー女史。

魔王ラーヴァナとの戦いで傷ついたラーマ王子の弟ラクシュマンを助けるためにヒマラヤに薬草を取りに行く猿の国の兵士たちに始まり、シータ姫を取り戻したラーマ王子が、魔王ラーヴァナに捕らわれていた間のシータ姫の純潔を疑い、それを晴らすためにシータ姫が火をくぐる場面、そして最後は隠遁していた森から王国に戻りめでたく戴冠する、という一連の場面を6幕で観せていただきました。

イキのいい男性陣も、村娘や姫のお付きの女性陣もみんな素敵。アビナヤ(演技)が中心のダンスドラマなので「ザ・踊り」という場面は少ないなか、時折ある踊りの場面では、混じりけのない型の完成度にうっとり。

ヴォーカルはまたまたハリプラサードさん、両面太鼓ムリダンガムも昨年来日された超絶技のアニル・クマールさん。とにかく音楽がゴージャス! 

踊りが少ないせいか、娘、爆睡。公演中は寝てもいいけどダラけた姿勢になるなと私にいわれ、上半身直立のまま器用に寝ているのがおかしい。それにしても、なんという豪華な子守唄!

ステージングを凝ってドラマティックに盛り上げに盛り上げるダンスドラマを得意とする学校もあって、素敵なのだけど神に捧げるという本来の目的の正統的なバラタナティアムではなく、人間を喜ばせるためのものという気がします。アートではなくエンターテイメントとして進化したというか。カラクシェートラのダンスドラマは正真正銘のアートだなと思います。

もちろんどちらがどう、ということが言いたいわけではなく好みの問題で、どちらが好みかといえば私は古典舞踊に関してはアートが好き。神様への捧げ物をご相伴して見せていただいているという感じが好きなのです。

終演後、お遣い物があって楽屋口にいたら、出てきたアニル・クマールさん第一声「来てるなら連絡してくれよ!」。覚えていてくださって感激です。

3日目

Christopher Guruswamy

昨年初めて観て、一目惚れした踊り手さん。男性のバラタナティアムはそれほど好きではないのだけど、彼は好きです。

彼はカラクシェートラの教則ビデオにお手本として出演していて、それはもう何度も何度も画面の中でみた踊り手さんでした。去年、ミュージックアカデミーでソロ公演をされると知り絶対に見逃せまいと意気込んで観て、一気にファンに。

インドの血を引くオーストラリア出身の方。ときどきほのかに洋風のテイストが入った踊り。ヴァルナムで女性を演じるときにみごとな女の子っぷりをみせたかと思えば、とんでもなく大きく高く移動する跳躍や男性的な力強いステップで魅せる。

今年はちょっとパワーで押しすぎるかなと最初こそ思ったけれど、パワーバラタナティアムは彼のスタイルとして確立しているということで、これからも楽しみです。

跳躍するとき、回転するとき、「踊っているのがたまらなく嬉しい」という最高の表情をするのですよ。なんだかこちらも感極まります。

最後の演目ティッラーナが、私が属するお教室でも上級で課題曲になっているHindolanで、振付も同じルクミニ・デーヴィー女史のもので、はからずも落涙。この方が踊るティッラーナはほんとうに歓喜の踊りという感じがします。

そうそう、クリストファーさん、映画にも出演されるようです。ダンサー役を現役ダンサーが演じるということでこれはもう、絶対、観るべし!

才能ある踊り手の主人公が、両親の離婚によって疎遠になってしまった音楽家の父を探す物語、のようです。