Subbaraju the True Hero

「バーフバリ 王の凱旋」の出演俳優、スッバラージュさんが来日されるということで、舞台挨拶つき上映に行ってきました。

ひねくれた性格ゆえ「キャーッ!」となるいちファンとしてではなくて、ちゃんとお仕事の相手として対等な立場でお会いしたい。

インド映画の関係者に対しては常々勝手にそんなルールを決めていて、空港で某有名俳優に会ったときも、路上で女神と同一視されるような大女優とすれ違ったときも、あの俳優やこの俳優やその俳優が目の前にいたときも、つとめて冷静に、積極的にサインをねだったり写真を撮ったりはしてきませんでした。

何者でもない私がそんなことを思うのはほんと不遜なんですけどね。そういうルールを決めて先を目指さないと、怠け者なのできっと気合が入らないだろうな、と。

夜の外出はなるべく控えていることもあって、今回も行こうとは思っていなかったのですが。

パッとツイッターを開いたら、重複したチケットを譲ってくださるという方がいらして、なぜか、反射的に「譲ってほしいです!」とメッセージを送っていました。

たまたま、家族に家のことを丸投げできるタイミングでもありました。プレゼントもメッセージもなにも用意はしていなかったけれど、とにかく行ってみることに。

何度も何度も観た「王の凱旋」が終わり、スッバラージュさん登場。

会場からは割れんばかりの声援。

譲っていただいた席は後方ブロックが始まる列で、そこそこ距離があったのですが、控えめに、言葉を選びながらゆっくり話すスッバラージュさんの目に光るものを見ました。

The one and only reason I came here is to meet you.
ここに来た唯一の理由は、みなさんにお会いするためです。

主演クラスではない、インド映画界であまたいる脇をかためる一俳優さん。きっととてもいいご家庭の出身だとは思うけど、映画界にコネがあったわけではないと思います。

ご自身も自分のことを「a normal actor=よくいる平均的な俳優」と表現していらっしゃいました。

「バーフバリ」というモンスター級の作品で掴んだ役に全力投球し、巡り巡って日本でここまでの熱い声援を受けるという流れ。

インドの映画界は良くも悪くもスターシステムで、圧倒的なスタープレイヤーに熱狂させるためにそのほかの要素があるという作品づくりが多いと思うんです。

だから主演クラスの俳優と大部屋の俳優とではキャリアのスタート位置からして違う。スターは最初からスターとしてデビューします。

バーフバリはどの役にもそれぞれ輝きがあって、どれが欠けても成り立たない要素になっているのがすごいなと思います。

声援を受けて言葉につまって数秒間マイクを握りしめたまま立ちすくむスッバラージュさん。

感無量っぷりがこちらにも伝わってきて、見ているほうもウッとなります。

どエラくかっこいい人には違いないけれど、超絶オーラがぶいぶい飛んでくるというわけではなくて。

たとえば誰もが認める大スターは輝きとともに圧もすごくて、近くに立つと吹き飛びそうになりますけど、そういうところが微塵もない。

控えめに穏やかにスッと立っている素敵な人、という印象でした。

最後、通路を歩いてくださって間近にいらしたときも、圧倒されるというよりはホッとする、という感じでした。劇中の、主人公たちにいつも寄り添っているあの役柄そのまま。

私のミーハーぶりですか?

ええ、両手を差し出して身を乗り出して握手していただきましたよ。うふふ。

長く細い指の繊細な御手でございました。


この1か月は私にとって怒涛の時間でした。

ふたつ返事で乗ってしまったツアーの日程をつくるところから実際に15名の団体をインドにお連れし、バーフバリのロケ地を見学したり嘘偽りない街中を歩いていただいたり。

かと思えば、インド料理屋さんの店番を始め、インド人のシェフたちや頼もしい友人と毎日あたふた動き回っていたり。

インドの生地でつくる旅服ブランドのプロデュースを目指してちまちま動いていたり。

資金繰りがうまくいかなかったり、時間が思うように使えなかったり、インドに対する謎の上から目線の人々に困惑したり憤ったり。いろいろ、ほんとうにいろいろ、あります。

でも、これが楽しい。私は、こういうことが、したかった!

いつになったらうまく回るのかほんとうにわからないのだけど、愚直に、やっていくしかないのよね。

スッバラージュさんがバーフバリの撮影に入ったのは2013年のことだったそうです。

私がバーフバリの「王の凱旋」に出会ったのはちょうど1年前くらい。そのころは「すごい映画観ちゃったよ……」とひとり興奮していても、ほとんど共感者がいなかった。

それが、みてくださいよ、この状況を。

世間的に見ればごくごく一部にすぎないかもしれないけれど、1年前に孤独な興奮をしていたのが嘘みたいな盛り上がり。

まいた種は、すぐに実にはならないかもしれない。

でもせっせと水をやって、おひさまに当てて、よい肥料をたくさん与えていこうと思うんです。

そういう気持ちにさせてくれて、あらためて、ありがとう、スッバラージュさん。

帰宅したらヨレヨレだったけど笑いがこみ上げてきました。44歳。これからもがんばります。

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