夜明け前

1日のうちでもっとも好きな時間は、夜明け前です。

インドの聖地バナーラスに暮らしていたときは、まだ暗いうちにごそごそ起きだして、ほぼ毎朝、アパートがある細い路地裏からガンジス河に出て、河沿いを散歩していました。

バナーラスの朝は早く、とくにビンボーエリアの住人や路上生活の人たちは、もう起きて働いています。

道の端っこでチャパティをこねているお母さんとか、寒さに震えながら外井戸で石けんの泡だらけで身体を洗っているお兄さんとか。圧力鍋で豆を煮るヒューヒューいう音があちこちで聞こえたり。サイクルリキシャ(自転車で引く乗り物)のおじさんたち(出稼ぎビンボー人の代名詞的な存在)が焚き火を囲んでお茶を飲んでいたり。

こういう人たちの生活にはほとんど電気がないからね、おひさま登ってる間じゃないとなんにもできない。気持ちがよいからとか、朝日が見たいからとかいう軟弱な理由で早起きしているガイジンと違って、本気の生活感があって、それを眺めながら歩くのが楽しかったです。楽しいっていったら怒られるかもしれないけど、楽しかったのよ。

そうやってダラダラ歩きながら、ガンジス河沿いでラマグルというバラモン僧のおじさん一家がやっている露天のチャイ屋に行きます。ブリキのバケツにコンクリートを流し込んだお手製の七輪(?)でつくってもらったチャイをちびちび舐めながら日の出を待ちました。

珍しく、そのころの日記があまりないのです。あのときなにを考えていたのかなあ、とたまに思うけれど、ま、飽和状態でかえってなにも残せなかったんでしょう。

毎朝こりずに「ポストカード買わない?」とか「神様像買ってよ」とか、二束三文の商品を買わせようとしていたラマグルの5歳くらいだった娘はとっくに子持ちのママになっているし、何年か前にはラマグルが亡くなったと人づてに聞き、年月の流れを感じます。

夜明け前が好きなのは日本でも同じ。登る太陽を眺められる地平線など望むべくもない東京都心の朝ですが、都会の朝には都会の朝のよさがあります。

今日もいい一日になりますように。

写真は某所の室内クリスマスデコレーション。これは確かに「インスタ映え」しますなあ。