ここのところWhatsAPPに毎日のように来るインド人からのメッセージの山にほとほと弱り切っていたのもあって、こんな画像きちゃったよ、というのをTwitterに投稿したら、やはりインド事情に詳しい人がタグをつくってくれまして。
インドあるあるといった感じで、各人が受け取った画像を、とほほ半分&やっぱ好きだわ半分でたいへん楽しく拝見。
そこへ、誰だか知らないけれど、それらを使ってまとめサイトを作る人が出てきましてね。
インドがどこか遠い国だと思っている人にとっても、わかりやすいインドのトンデモ話として、おもしろいと思うんですよ。私自身、こんなおもしろいネタはない、インド人おもろいわー、と思うもの。
でも、送ってくるインド人は100%善意。たとえ私がその人が誰だか思い出せず、返答に困り、夜中に鳴り続ける受信音にイライラしていたとしても、送って来るのは、生身の人間。
遠い異国の”Japan”にいる私に何かしらのコンタクトができたことが、きっと嬉しくてしかたがない、ネットってすごい、スマホってすごい、一瞬で外国と繋がれちゃうんだってワクワクしている、善良な市民なわけですよ。
外国人なんて珍しくもない、外国もしょっちゅう行っているという人もいるけど、自分の村から出るのさえ一大事、外国なんて夢のまた夢、という人も同じ時代の同じ国に存在する。
そりゃあまあ、なんとかして繋がっていたいという気持ちは、わからなくもない。日常が閉塞していればいるほど、非日常はある種の救いだから。
そんなわけで、正直なところ大変困ってはいるのだけど、だからといって、全世界に向けて「インド人ってさーありえないよねー」とおもしろおかしく晒していいわけじゃない。
インドと関わると、これはもう深刻に怒ったり悩んだりせず、ネタとして笑ってやりすごすしかないなということが大なり小なりあってですね。本件もその手の案件なんですけども。
あたりまえのことですが、インド人はネタを提供したとは思っていない。普通に真面目に暮らしている。笑いにしてしまってごめんねと、自分がしたことがとても悪趣味に思えてきて、一連のツイートは削除した次第です。
セクハラ親父から毎朝くるGood Morningの神様画像とか真剣に困っているのは事実で、ええ加減にせえよと額に青筋のひとつも浮きますし、いまそれどころじゃない私集中しないといけない仕事してますってときに、HiとかHow are youとかYou are beautifulとか(なに見てるんだか知らないけど)、こちらの都合を一ミリも考えないアホな連続メッセージを送ってくる人には、ほんっと頭にきてますけどね!
話は変わって。
数年前、私が行き先を言い間違えて遠回りしてしまったタクシー移動のドライバーがあまりに文句言うので口論になった。
まあ悪いのは私なのだけど、ドライバー氏の抗議のしかたもなかなかひどくて、人種差別的な発言も入ってきて、最近あまり瞬間湯沸かし器的に怒らなくなった私も、頭に血がのぼった。
私が日本人に見えないこともあって、裕福でない、普段ぞんざいに扱われがちな層のインド人が、ネパール人や北東インドの少数民族を見下す対象にしているのを身をもって知ることが多い。人って「自分より下」を設定しないと生きていけないのかな、自尊心を育てることや教育って大事だよなといつも思う。
とはいえ、言われっぱなしで黙っている性格でもないので、目的地のホテルに着くまで延々と怒鳴り合いの大げんか。
ようやくホテルに着き、支払いのため500ルピー札を出したら、ドライバー氏もカッカッと来ていたあまりなのか、勘違いして1000ルピー札だと思ったらしく。
出した額より大きいお釣りがきた。お金で損することはあっても得することはそうそうないインドではひじょうに珍しい現象。車内が暗かったとはいえ、500ルピー札と1000ルピー札は色も違うし間違えることもあんまりないはず。
私もまだ腹が立っていたのでそのままお札を受け取ってホテルにチェックイン。
そのホテルは空港近くのエアロシティという外資系のスタイリッシュなホテルが集まっているエリアにあり、ベルボーイもレセプションもみな若くテキパキとして、泥臭いインドとは一線を画した洗練された場所で。
チェックイン担当は大学出たてみたいな、賢そうな顔をした、若い男子で。
やりとりしながら、
さっきのドライバー、気づかないのが悪いとはいえ、めちゃくちゃ損して困っただろうな。金持ちなわけないし、私にとってはたいした額じゃなくても、あの人には大きなお金だったよな。奥さんと子どもが今日ごはん食べられなかったらどうしよう。病気のお母さんがいたらどうしよう。
そんなことを考えてしまい、パスポートを受け取りながら、自分でも意外なことに、ポロっと涙が出てしまった。
受付男子、びっくり。
「どうしたんですか、マダム???」
こういうとき、日本だと見て見ぬふりをするのが大人の気遣い、みたいなところがあるけども、こんな時代の最先端のようなホテルでも、インド人はインド人。基本、とてもお節介な人々。泣いている女性を放っておくようなことはしない。
よくわからないなりゆきで、私は受付男子に事の次第を話した。
息子といってもいいような歳の若い男の子に、いい歳した大人が、涙ながらに(しかも悪いのは私である)。
うんうん、と黙って聞いてくれたチェックイン男子は、わざわざカウンター奥から出てきて私をエレベーターまで案内してくれ、そして、輝く笑顔で、言ってくれた。
” Madame, the God knows everything. He will balance it some day. Don’t worry”
(マダム、神は全部お見通し。いつかちゃんと辻褄が合うから、心配しないで)
生まれたときから信仰をもち、神様という大きな視点をもって育った人間の強みを目の当たりにした。
スーッと心が晴れ、ドライバー氏に「ほんとごめん」という気持ちになり、もしお金が足りないと戻ってきたら、どんなに罵られても、ちゃんと色をつけた額を渡そう、と思った。ドライバーが来たら呼び出してとベルボーイたちに言付けたけど、結局彼は現れなかった。
弱い立場の者は、なにをされてもただ黙って耐える。力を持つものは、横暴に振る舞う。インドでよくある風景。
私がビシっとスーツを着て、どこからどうみても外国人にしか見えなかったら、ドライバーもあそこまで文句をいうことはなかったと思う。見下せる相手だと思えばこそ口角泡飛ばして喧嘩できたのだ。
ところが着いたホテルは立派で、なに人かは不明でもどうやら私は「強い立場」側の人間で。ドライバー氏はそこで私と争っても無駄だと諦めざるを得なかったのかもしれない。ほんとうに気の毒なことをした。
He will balance it some day.
いつかちゃんと彼が辻褄を合わせる。
それですべてが解決したわけではないのだけど、受付男子はとりあえずその場の私を救った。
こんな若い男の子の言葉に、してやられる。インド、すげえな。
おもしろいから、みんなインド行こうぜ。