英語学習のモチベーションだったもの

ずいぶん前のこと、イギリスに渡りました。インドで知り合ったイギリス人のパートナーができたからです。

当時は日焼けして、着るものもバックパッカー的な出で立ちだったからなのか、パートナーと一緒にいると、しょっちゅう、フィリピン人の愛人か、インドネシア人のお手伝いさんか、欧州によくいるそういうステイタス(出稼ぎというやつ)の人に間違えられました。当のフィリピン人やインドネシア人の女性から親しげに話しかけられたりもしました。

渡英時の私の英語力は、TOEIC900。決して悪いほうではないでしょう。でもアメリカ式の評価方法なんて大雑把なもので、そんな点数をとれても「話せる力」はネイティブレベルにはまったく届きません。

そりゃ、それまでにも添乗員のお仕事やその他のお仕事で英語を使っていたので、大きな不自由はありませんでした。でもそれって「ちょっと変だけど意味は通じるから、ま、いっか」というやつです。

そこで満足したらいつまでも「ワタシ、ガイジンネ」レベルにとどまり、相手にストレスを感じさせずに自然なやりとりができるようにはなりません。本当はとても賢い(!)ことを考えていたとしても、言葉のつたなさのせいで稚拙な印象を与えることだってあります。

渡英当初はイギリス英語にも慣れていなかったので、そもそもよく聞き取れないということがままありました。「ミィねトゥデイね」というレベルではないにしろ、教養ある人たちのなかに入って、ユーモアを交えて会話を楽しむなんてまったくできませんでした。

フィリピン人やインドネシア人に恨みはありません。差別はそもそも受ける側に劣等感がない場合は成り立たないので、家族の生活を支えているのは自分だ、という誇りに満ちた彼女たちには、ちょっとくらいの偏見や差別行為は吹き飛ばすたくましさがあったように思います。

一方、周囲の人との会話や、さまざまな手続きが必要なお役所で「ああまたこの娘はわかってない。もう1回説明しなくてはいけないのか、面倒だな」という相手のうんざりした顔を見るにつけ、私は心底参ってしまいました。

それまでの人生で対等以下に扱われることがあまりなかったので、言葉の壁のせいでわからない、わかってもらえない、そして厄介者扱いされるということが、いたく私の自尊心を傷つけたのです。

イギリスに暮らすなら、もっと英語を身につけなければ。「通じる」だけではなくて、対等の人間として認めてもらうには教養ある言葉遣いができなければ。

気になる新聞記事はスクラップして一語一句調べ上げていました
相槌の打ち方まで勉強(笑)

そんな理由で語学学校に通い始めました。9か月ほど朝から晩まで英語漬け、授業中はもちろん、テレビも新聞もわからなくてもとにかく辞書片手に消化する、という生活を続けました。

最後の数か月は学費免除になり一番上級クラスで先生のアシスタントをしたり、語学学校の図書館の受付をしたり、はたまたセレブ向け高級クリニックの電話予約係のバイトをしたりしました(患者の名前が聞き取れなくて毎日大パニック……)。

そんな努力の甲斐あって、最後はケンブリッジ大学が主催する英語検定のプロフェッショナル級という難関の試験に合格。TOEICのようにマークシートでさっさと終わるものではなく、2日間に分けて筆記試験、エッセイ執筆や面接まで入った盛りだくさんの試験です。英語というより論理的思考の試験のようで、私は合格ラインギリギリのC判定でした。

するとどうでしょう……。

あんなにコンプレックスだった周囲の人との会話やお役所でのやりとりは、まったく困らないどころか、私のほうが口が立つという場面が多くなりました。あんなに恐れていたものが、言葉がわかると大したレベルの話ではないことに気づいてしまいました。

それでも、私の英語力は「ガイジンのわりには話が通じる」程度で、率直にいってそれほど高いわけではありません。

イギリス生活ののち、帰国して外資系の会社に転職したてのころ受験したときはTOEIC955というスコアでしたが、それだってお仕事レベルで英語のコミュニケーションがスムーズにできるようになるまでは数か月かかりました。そのうちグローバルの電話会議のチェア(進行・とりまとめ役)もやるようになったけれど、これは最後まで上手いとはいい難い出来でした。

バイリンガルで育った人などには太刀打ちできませんし、インテリの母語話者の前ではポカーンとしてしまいます。もっとできる人は、つまり星の数ほどいると思っています。

しかし!

私はインド英語が分かるんですよ! そう、英語のネイティブ話者にも「わからない」といわしめる独特のイントネーションとアクセントの、われらが愛すべきインド英語が! インド人のインド英語話者のほうが、英語のネイティブ話者の数よりも圧倒的に多いんですよ?

これはきっと、日本全国インド英語理解度ランキングの上位に入れることでしょう。と、今日は自分の宣伝をしたかったのね(笑)。インド英語のお仕事お待ちしております。ははは。

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イギリスでの生活は結局うまくいかず、いろいろと試練もありました。でも、月並みですが人生に無駄なことはひとつもないのだなあというのが今の結論です。

人生で一番勉強した時期だったかもしれません