魔界を通る

ちょっと奥さん、今日はまあ茶飲み話として聞いてくださいよ。

子どものころ「いるんだけどいない」とでもいうのか、自分が透明人間になったような感覚に襲われるときがありまして。

目の前の風景を急に水槽のなかから眺めているような、自分は確かにそこにいて、話して動いているのに「これって夢?」とでも言いたくなるような、現実感のない世界にポーンと投げ込まれたような気がすることがありまして。リチャード・リンクレイターの”Waking Life”という映画を観たとき、「あ、私たまにこういうことあるな」と思う世界が描かれていて驚いたのですが、リアルにあんな感じ。

大人になったいまも、ごくごくたまに、そういうときがあります。そしてそのせいなのか、いまいち説明しきれない事象に遭遇することがさらにごくごくごくごく稀に、あります。

先日、久しぶりにそんなことがありました。

前提として、

・方向感覚がいいつもりで実は方向音痴
・Google地図の不備もしくは私が地図が読めない
・電動アシスト付き自転車の電池の交換時期
・視力2.0だけど実は夜目
・実はちょっとアタマがおかしい

科学的にはこれらが理由と考えられます。

なにが起きたかといいますと、くだんの透明人間世界のとき、もうちょっと深入りして、自転車走行中に魔界を通ってしまうことがあるんですね。魔界ってなんだよときめきトゥナイトか! ←溢れ出でる昭和感。

たとえば、住宅街を延々と同じ景色のなか走ってしまうとか。このときは走行中ずっと顔の近くでお線香の匂いがしていました。

きっとお寺の近くだったと思うんですよ。きっとね。

さて今回は。

昼間一緒だった友人と別れて野暮用を済ませ、再びあるイベントで集合、というときです。

秋のすっかり暗くなった夕方です。街道沿いを走行していました。自宅からはすこし離れていますが、何度も通ったことがある大きな通りです。

広い歩道があるので、その歩道の車道側をママチャリで走ります。

車道側にフードをかぶった男性がこちらに向かって歩いてくるのが見えまして、1メートルくらいの距離をとってすれ違おうとしました。

ら、突然、右半身が、ドン! とぶつかりました。肩が触れ合うとかではなくて、右側ぜんぶに思い切り体当たりされたかのような、ドン!

えっ? けっこう距離あったよね? とびっくりし、でも普通に接触事故の車両側なので「ごめんなさい!」と謝るも、相手の方は振り向きもせず行ってしまいました。

気を取り直してまた走り出し、街道の角を曲がりまして。

もうすぐ行くと、目的地近辺のはず。

ところが。

着かないんですよ。

透明人間世界がスタートしていることに気づき、「あ、『あれ』が久しぶりにきた」と、現代のテクノロジー、Googleマップで現在位置を確認しますが、私がいないはずの位置が示されます。

わりと広い道なのに、街灯がおさえめで、通行人はいませんし、路駐車は連なっているけれど、走っている車はいません。目の前の風景にひと気がない。

こういうときは止まってはいけない気がして、目的地にいる友人のことを思いながらひたすら走りまして、この角だ! というところで曲がりましたら。

目的地でした。始めて行く場所でしたが、合っていました。隣接するチャペルから賛美歌が聴こえて泣きそうになりました。

自転車を停め、一目散に会場に駆け込み、友人が手を振るのを見て、ホッと安堵。

時間を見ると、もうすぐ着くと思ってから20分ほど経っていました。イベント拝聴中、なぜか、いい年してずっと友人にぴったりくっついていました。透明人間感はずっと続いていて、最後、嘘かほんとかわからないけど、至近距離にいて気づかないはずはない人に「あれ、いたの」といわれるオマケつき。

さて帰り道。行きに40分以上かかったところ、あっさりと20分で帰宅しました。しかし、フル充電してあった電動アシスト付き自転車の電池が半分以下に減っていました。

もう一度書きますと。

・方向感覚がいいつもりで実は方向音痴
・Google地図の不備もしくは私が地図が読めない
・電動アシスト付き自転車の電池の交換時期
・視力2.0だけど実は夜目
・実はちょっとアタマがおかしい

いいとこ、このへんだと思うんですよ。ええ。私、別に超常能力とかありませんので。最後のが一番濃厚路線?

普通に考えて、

自転車走行中に歩行者にぶつかったとても迷惑な人がその後道に迷って思ったより長い距離を走った、以上。

ですよねーーー。

これまでも、こういうことが起きるのは決まって夕方でした。

もしかして、狐に化かされて魔界を通るなんてことが、あるんですかねえ。

ちょっと奥さん、どう思います??