子どもとの旅のこと-2

さて昨日の投稿『子供との旅のこと-1』では、

  • なぜ子どもを連れて旅をするのか
  • その際の親としての責任

について書きました。

生後4か月で旅に連れ出された娘ですが、いちおう私も事前に赤ちゃん連れの情報サイトなどをチェックしていましたら。

「本人は覚えていないのに親の都合で連れて行かれてかわいそう」という意見がとても多くて「ほほう……」と思ったのをよく覚えています。

ハワイで会った地元の人は「大きくなったら見せてあげるのよ、ほら撮ってあげるわ!」と頼む前から写真を撮ってくれる気満々だったりしました。まさに私の両親が、家族旅行の写真をたくさん撮り、それを見て子どもたちが追体験しているのと同じ。

行く先々、すれ違う本土からの観光客は赤ちゃん連れだらけ。赤子連れ同士、しょっちゅう話しかけられたり話しかけたりします。一番、月齢が小さかった子はなんと生後2か月でした。

アメリカ人にとってはハワイは国内旅行とはいえ、日本からのフライトと同じくらいの時間、飛行機に乗せてくるわけですから、ツワモノ! とびっくりしました。

機が熟す! インドデビュー

予防接種もあらかた済み、保育園でうつしうつされ仕事を休めない親たちを悩ませた幾多のビョーキで体力もついた、外遊びや散歩などで長距離を歩くことにも慣れた(保育園にはほんとうに感謝しかありません!)。

娘が4歳になった年の末に、11日間の休暇をもぎ取って南インドのチェンナイに連れていきました。

実は妊娠中にも渡航しているので正確には初めてではないのだけど、ともかくも娘が生まれてからは初めてのインドです。

前半はキッチン付きのサービスアパート、後半はショッピングセンターに隣接した5つ星ホテルに移りました。

食事と滞在先には最大限の注意を払い、移動もHotel Carと呼ばれるホテル付きの行儀のいい車を手配したりして、このときの出費は半端なかったです(笑)日本と比べたらとても高くつきますが、インドはある程度の安心安全はお金で買える国。

自分の初インドのときよりも数倍おっかなびっくりではあったけれど。

集団生活の保育園にインド産の感染症を持ち帰るのが一番怖かったので、すべてを最上レベルで取り揃えた結果、体調も崩さず危ない目にも合わず無事帰国。

徐々に慣らしていく

以後、友人の結婚式のためにバンガロール、夏休みにケーララ州のリゾートホテルと順調にゴージャス系(財布が大変痛いやつ)の渡航を重ね、翌年の夏休みはちょっとレベルを下げたケーララ州再訪、翌年は冬休みにデリー、ハイデラバード、チェンナイを周る3週間あまりの旅をして、現在9歳の娘のインド歴は5回になりました。

そのうち最後の2回は小学生になった娘とのふたり旅でした。

母娘旅だと機動力はひとり旅の1/10くらい、そして予算は3倍くらい。経費は最初は5倍くらいだったのでやっと節約するポイントが分かってきたところです。

行くたびに宿のレベルがどんどん下がっていき、

「ママ、ここ、足の裏が黒くなる。最初に泊まった大理石の床のホテルがいい」

と文句を言いますが、大理石の床は高くつくのです。足の裏が黒くなるくらいでは死なない。なにごとも経験です。ええ。

母娘インド旅

小学生にもなると基本的なことはひとりでできるので日常生活も旅も格段に楽になりますが、インドではやはり環境が違いすぎるので、赤ちゃんのときと同じくらい付きっ切りになります。

ちょっとそこまで出かけるだけでもいちいち過剰にドラマティックなインドです。あちこち動き回りすぎると、子どももバテるし、それをフォローする私もたいへん疲れます。

涼しい午前中に動いて、あとは近場で宿題をしたりお茶を飲んだり映画を観に行ったり。

日本にいるとつい気ぜわしくてできないような蜜月です。家事も炊事もしなくてよくて、仕事と子どもの相手だけしていればいい時間。最高オブ最高。

ちなみに、インドの庶民にとって、旅行は一族総出(くらいの大人数)でするもの。外食ですらファミリーイベントであって、女ひとりでカフェ巡りとか美味しい店探訪などは、よほどモダンな考え方をする都市部の中上流階級でないかぎり一般的ではありません。

大人数ではなくても、ちょっと遠出をする場合は、父親なり夫なり兄弟なり、誰かしらの成人男性が付き添うことが多いのです。ましてや旅行をかいわんや。

だから年端もいかない子どもと母親が単独で旅行するというのは、かなり普通ではないことだと思います。

とはいえ、娘を連れていると私もちゃんと外国人に見えるようで「駐在員の帯同家族で、暇を持て余して母娘で出歩いているのだな。アクティブでいいけど、旦那様はさぞかし寂しがっておいででしょう」と勝手に生温かい目で見てくれる人が多くて助かります(笑)。

「単に私がインドに来たいからついでに娘に付き合ってもらっています」と通りすがりの相手にいちいち説明するのが面倒なので、最近はすっかり相手の想像に任せて適当に話を合わせています(笑)。

目線の変化

そう、私はひとりでインドにいると、属性がよく分からない怪しい人物に思われることが多いのです。インドは現在も激しく階級社会なので、その人物の属性によって対応が変わることがままありまして。

英語のアクセントはインドじゃないし、ヒンディー語は下手だし、でも顔は北東部の少数民族みたいだし、着ているのはインド服。金持ちには見えないけど、さっきiPhoneとカメラを持っているのが見えたぞ。

なに人なんだろう、ここでなにしてるんだろう。どう接したらいいのだろう。

出会う人たちが水面下で少々混乱しているのが、ひとりだとよくわかります。

乗り合わせた国内線で。観光地で。ぶらぶら歩いて入った食堂のテーブルで。

私が接触するのは圧倒的に男性が多いのです。地方へ行けばいくほど、未知の相手に正面から対応するのは男性で、女性は遠巻きに眺めているか、奥に引っ込んでいる。

娘を連れて旅をしていて一番違うと感じたのがこの点でした。

まず私たちは日本語で会話しているので、とりあえず外国人には見えます。母娘で出歩けるくらいのモダン思考と財力があるらしいという属性もつきます。

するとどうなるか。

正体は分からずとも警戒心が薄れるのか、インドの女性たちと接する機会がめちゃくちゃ増えるんですね。興味津々であちらから話しかけてくるし、娘のためにあれこれ世話を焼いてくれたりもします。

インド人は子どもにめちゃくちゃ優しいのです、ときに甘やかしすぎるくらい。

行列に並んでいたら先に行けと通してくれたり(私ひとりだと割り込みと戦っている)、手荷物検査が明らかに手抜きになったり(私ひとりだと靴も脱いでX線に通せと言われることも)、ギューギュー詰めの場所で私たちのためにサッと空間を空けてくれたり(私ひとりだと以下略)。

娘にとってのインド

さて、肝心の娘にとって、母親が行きたいからという理由で連れて来られているインドという国は、いったいどんな位置づけなのか。

現在の娘は、インドについて好き嫌いを語れるほどまだ大人でもない風で、ただ「ママとずっと一緒にいられるのはいい」という感想を言う点、「大人の都合で連れ回して」への免罪符的な面があるような気はしています。

一番最近の旅は3週間あまりと少々長かったこともあり、経費節約のためデリーではいわゆる「安宿」と言われる部類の宿に泊まりました。

パハールガンジと呼ばれる、バックパッカー時代に大変お世話になったエリアで、私にとっては勝手知ったる場所。友人の中流インド人たちは思い込みだけで「あんな危険な場所に行くな」などと言いますけども、旅に必要なあれこれが揃っていて小回りが効いて便利なんだってば(高級ホテルは用事ひとつ済ませるのに人手がかかりすぎて面倒だったりする)。

そんなパハールガンジから出てUberタクシーと合流したりするときに、いつも出る大通りがあります。そこにはだいたい同じ場所に物乞いファミリーが暮らしています。

路上なので生活丸ごと大公開で、砂利が混じったような豆を使い込んだベコベコのアルミ鍋で煮ていたり、子どもたちが遊んでいたり。

信号が赤になると、停車した車の窓を子どもたちが叩いてお金を無心したり、花や風船などなにかしらの商品を売ったり。窓を開けて小銭を渡す人もいれば、絶対に目を合わせない人もいます。

都会の物乞いは荒んだ目をしている人が多いです。

この人が生まれてから今までの道のりはいったいどれほど過酷だったのだろうと毎度思うけれども、私には想像もつきません。おばあさんに見えるような女性も、実年齢は私とそう変わらないのではないかとたまに思います。

雨風しのげる屋根も壁もない路上で暮らし、社会から生涯ほとんど無視され生きる人がいまもいる。

幼子を抱えて会社でも家でも分刻みで働き、気持ちの余裕などまったくない生活を長年していたけれど、そんなの全然たいしたことねえんですわ。

日本で言われる「壮絶人生」なんてインドに来たらお昼のメロドラマくらいのインパクトしかない(だから大丈夫でしょ、という意味ではない、もちろん)。

Uberに乗り込み、路肩のそんな生活を目にした娘。

「あの人たちなんであそこにいるの」

「家がないから道で暮らしてるんだよ」

「なんで?」

「ママには分からない。道で暮らすのってどう思う?」

「やだ。暑いしテレビないし」

「そうだね。ママもやだ」

別の場所で。

お金をくれと言ってきた物乞いに小銭をわたすのを見て、娘。

「なんでママがお金をあげるの」

「分からないけど、ほしいって言われたからだよ」

いつもではないけれど、インド旅にはときどきこんな場面があります。

娘の「なんで」に答えられるだけの充分な知識も経験も、子どもに分かるように説明するスキルも、いまのところ私にはありません。その答えは、これから娘と私が一緒にすこしずつ勉強して、そして理解していくのでしょう。

その先になにが起きるかは分からないけれど。


ニーズがあるか不明すぎますが、明日は子連れインド旅で私が気をつけている安全上のポイントなどを書くつもりです。